今回紹介するのは、五十嵐律人さんの『真夜中法律事務所』です。
本作は、霊が見えるようになった検事と、霊から相談を受ける弁護士がタッグを組み、事件の真相を追っていくミステリー小説です。
霊を成仏させるために必要なのは、その霊を殺した犯人に裁きを与えること。
しかし、すでに事件が解決し、判決が下されていたらどうなるのでしょうか。
もし、その判決が間違っていたとしたら……。
検事と弁護士が、霊の力を借りながら事件の真相を追っていくという、少し変わった設定が魅力の作品です。
それでは、あらすじと感想を紹介していきます。
■あらすじ
現役検事の印藤塁は、仕事からの帰宅途中、怪しい男を見かけます。
秋も深まってきた時期の夜に、タンクトップにハーフパンツという、まるでトレーニング中のような服装で暗闇に立っている男。
気になり、話かけてみるものの、どこか様子がおかしい。
すると、別の男から声をかけられます。
「あなたは彼が見えているのですね。」
実は印藤は、少し前から霊が見えるようになっていました。しかも、霊の姿ははっきりしていて、生きている人と見間違えるほどです。
声をかけてきた男と、タンクトップ姿の霊とともに向かった先には、『深夜法律事務所』という看板がありました。
そこにいたのは、弁護士の深夜朱莉。
この法律事務所では、さまよう霊たちから相談を受け、成仏できるように問題を解決していました。
霊が成仏するために必要なのは、自分を殺した犯人に裁きを与えること。
ところが、すべての事件が簡単に解決できるわけではありません。
捜査によって犯人が捕まり、裁判で判決が下されたにもかかわらず、霊が成仏できずに残り続けていることがあります。
それは、被告人が真犯人ではなかった可能性があるからです。
一度判決が下されると、事件は解決したものと見なされ、その後の捜査が行われなくなることもあります。
この場合、もし真犯人が別にいるのなら、被害者の霊はいつまでも救われません。
こうして、検事の印藤と弁護士の朱莉は、霊を成仏させるため、解決したはずの事件に隠された真実を追い始めます。
■感想
・事件が解決した後から、本当の謎が始まる
本作の面白さは、すでに解決したと思われている事件から、もう一度真相を探っていくところです。
一般的なミステリーでは、事件が発生し、探偵や警察などが情報を集めながら真相を解明していきます。
しかし、本作では少し違います。
警察や検察が捜査し、犯人が捕まり、裁判で判決が下された事件であっても、実は捜査が間違っていた可能性があります。
そこから改めて証拠や情報を集め、本当の真実を探っていくのです。
さらに、本作には霊という存在が加わります。
事件の被害者である霊から話を聞くことで、生きている人間だけでは気づけなかった事実が見えてきます。
霊の証言を手がかりに事件を解決していくという展開は、本作ならではの魅力だと思いました。
・オカルト要素がありながら、しっかりとしたミステリー
タイトルや設定から、オカルト色の強い作品を想像するかもしれません。
しかし、本作は怪奇現象が次々と起きたり、血まみれの幽霊が突然現れたりするような、恐怖を前面に出した作品ではありません。
霊は怖がらせるための存在ではなく、事件の被害者であり、成仏できずに悩んでいる登場人物の一人として描かれています。
そして、事件の真相を探る際には、証拠や情報を集めながら推理を進めていきます。
霊という不思議な存在を扱いながらも、ミステリーとしての面白さがしっかりと感じられる作品でした。
怖い話が苦手な人でも、オカルトという設定だけで敬遠する必要はないと思います。
・法律の世界を知ることができる
本作の主人公は検事です。
そのため、検事の仕事内容や事情聴取の進め方、検察官としての考え方など、普段の生活ではあまり知る機会のない情報が登場します。
法律に関わる人たちが、どのような考え方で事件に向き合っているのかを知ることができるのも、本作の魅力です。
ただし、タイトルから法廷での争いを中心としたリーガルミステリーを想像すると、少し印象が違うかもしれません。
法廷で弁護士と検察官が争う展開はなく、事件の証拠や情報をもとに真犯人を探していく、通常のミステリーに近い内容です。
また、法律や司法に関する考え方が物語の重要な部分に関わってくるため、多少専門的で難しいと感じるところもありました。
・冤罪を許さない二人の信念
検事や弁護士にとって、冤罪は絶対に避けなければならないものです。
本作の印藤と朱莉も、その信念を持って事件に挑みます。
しかし、霊が成仏できずに残っていることから、すでに解決した事件の捜査が間違っていたとわかっても、その事実を簡単に証明できるわけではありません。
そもそも、霊の存在を信じてもらうこと自体が難しいのです。
霊から話を聞き、事件の真相を知っていたとしても、それだけでは周囲を納得させられない。
このもどかしさが、物語に独特の緊張感を生み出しています。
それでも、二人が証拠や情報を集めながら真実にたどり着き、事件が解決して霊が無事に成仏できたときには、ホッとするような安心感がありました。
事件を解決することが、単に犯人を見つけるだけでなく、亡くなった人を救うことにもつながっている。
そんなところも、本作の印象に残った部分です。
・霊の証言があれば、すべての事件は解決するのか?
本作を読んで、少し考えさせられたことがあります。
それは、もし霊の証言が捜査や裁判で使えたら、未解決事件や冤罪事件はもっと早く解決できるのではないか、ということです。
被害者本人から話を聞くことができれば、犯人を特定するための大きな手がかりになるかもしれません。
しかし、現実の世界では、霊の存在は科学的に証明されていません。
仮に霊が何かを語ったとしても、それを事実として認め、司法の場で証拠として扱うことは簡単ではないでしょう。
本作は、霊が存在するという特殊な世界を描いているからこそ、こうした問題についても考えさせられます。
霊がいるから事件を解決できる、という単純な話ではなく、真実を知ることと、それを証明することの難しさも感じられる作品でした。
・読みやすい文章だけれど、少し難しい部分もある
文章には会話が多く取り入れられており、堅苦しい言葉や難解な表現が続くこともないため、自然と読み進めることができました。
一方で、検事や弁護士が登場する物語なので、法律や司法に関する考え方が事件の展開に深く関わってきます。
そのため、普段あまり法律に触れる機会がない人にとっては、少し難しく感じる部分もあるかもしれません。
また、登場人物の名前が珍しく、少し覚えづらいところもありました。
特に気になったのが、弁護士の深夜朱莉です。
作中では名字で「深夜」と呼ばれることが多いのですが、昼間の場面でも「深夜」という言葉が登場するため、夜の深夜を連想してしまい、少し混乱することがありました。
物語そのものは読みやすいものの、こうした点には少し慣れが必要だと感じました。
■まとめ
『真夜中法律事務所』は、霊が見える検事と弁護士がタッグを組み、解決したはずの事件に隠された真実を追っていくミステリー小説です。
霊の証言という特殊な要素を取り入れながらも、証拠や情報をもとに真犯人を探していく展開が楽しめます。
また、冤罪を許さない二人の信念や、亡くなった人を救うために事件の真相を追う姿も印象的でした。
文章は読みやすい一方で、法律に関する専門的な内容もあるため、読書を始めたばかりの人には少し難しく感じられるかもしれません。
そのため、初めて読むミステリーとしておすすめするというよりは、何冊かミステリーを読んで、少し慣れてきた頃に手に取ってほしい作品です。
いつものミステリーとは少し違う設定を楽しみたい人や、冤罪事件を題材にした物語に興味がある人は、ぜひ読んでみてください。
