小さな謎から「33年前の真実」に迫る学園ミステリー|『氷菓』感想(ネタバレなし)

初心者向けミステリー

「ミステリー小説を読んでみたいけれど、殺人や怖い話はちょっと苦手……」

そんな方におすすめしたいのが、米澤穂信さんの『氷菓』です。

『氷菓』は、高校生たちが学校で起きる小さな謎を解き明かしていく学園ミステリー。
学校にある七不思議のような雰囲気がありながら、オカルト的な怖さはありません。

「なぜこうなっているんだろう?」
普段なら気にせず流してしまいそうな小さな疑問を、主人公たちと一緒に考えていく物語です。

殺人や犯罪が起こるようなミステリーではないので、怖い作品が苦手な方でも読みやすい一冊だと思います。


■あらすじ

神山高校に入学した折木奉太郎(おりき ほうたろう)は、姉の強引な指示によって、廃部寸前の「古典部」に入ることになります。

何事にも積極的に関わろうとせず、面倒なことを嫌う奉太郎。
部員数0人と聞いていた古典部なら人と関わらず、幽霊部員同然で丁度いい。
そう考えた奉太郎にとって、古典部への入部は都合のいいものでした。

入部届を出して部室へ向かった奉太郎は、部屋の鍵を開け中に入ると、そこに一人の女子生徒がいました。

彼女の名前は千反田(ちたんだ)える。
彼女もまた、古典部に入部していたのです。

部員がいたことに少しがっかりしながらも、二人で話をしているうちに、奉太郎はある不自然なことに気づきます。
「なぜ、部室の鍵が閉まっていたのか?」

部屋の中にいた千反田は、自分では鍵をかけていないと言います。
それに内側からは鍵をかけることができません。

奉太郎が来るまでは、千反田一人しかいなかった。
それなのに、なぜ扉には鍵がかかっていたのか。
千反田から奉太郎が来るまでの状況を聞きながら、この小さな謎を解き明かしていきます。

奉太郎の推理力に感銘を受けた千反田は、自分が抱えている悩みを奉太郎に打ち明けます。
その悩みを解決するため、二人は行動を始めることに。

しかし、そこには次々と新たな謎が待っていました。
毎週同じ時間に借り出される本。
なぜか抵抗する壁新聞部員。
そして、古い文集に書かれていた33年前の出来事。

奉太郎と千反田は、友人たちとともに、少しずつ謎の真相へと近づいていきます。


■感想

・学校の「七不思議」のような学園ミステリー

『氷菓』を読んで最初に感じたのは、学校にある七不思議のような雰囲気です。
ただし、オカルト的な怖さがあるわけではありません。
「そういえば、なんでだろう?」
と思っても、普段ならわざわざ深く追求しないような、小さな疑問を解き明かしていきます。

学校という身近な場所で起こる、ちょっとした不思議。
それを一つずつ調べていく感覚が、この作品の面白さだと思います。

・殺人も犯罪もない、平和なミステリー

ミステリー小説というと、殺人事件や犯罪を思い浮かべる方も多いと思います。
しかし、『氷菓』にはそのような物騒な事件はありません。

学生たちが学校で起きた謎を解き明かしていく、かなり平和なミステリーです。
そのため、殺人事件や怖い描写が苦手な人でも読みやすい作品だと思います。

また、謎解きだけではなく、学生ならではの悩みや葛藤も描かれています。

学校の授業で少人数のグループに分けられ、それぞれのグループメンバーで意見を出し合い、それをまとめて発表する。
そんな学生時代の出来事を覚えている人もいると思います。
あの時の風景を見ているかのような感覚になり、学園ドラマとしても楽しめます。

・「33年前の真実」を主人公たちと一緒に推理する

物語の中には、いくつもの小さな謎が登場します。
そのたびに謎解きを楽しむことができますが、最初から最後まで物語の中心にあるのは「33年前の真実」という大きな謎です。

33年前に学校で何が起きたのか。
しかし、調べてもそれを知っている人はほとんどいません。
残されている資料も少なく、手がかりも十分にあるわけではありません。

そんな乏しい情報から、当時の状況を考え、何が起きたのかを予想していきます。
証言や証拠をつなぎ合わせて真実を見つけるというより、
「この情報から考えると、こうだったのではないか?」
と、主人公たち自身が当時の状況を想像しながら推理していくタイプのミステリーです。

そのため、読者も奉太郎たちと一緒になって、
「もしかすると、こういうことでは?」
と考えながら読み進めることができます。

・「省エネ」少年 奉太郎が面白い

この作品の魅力は、登場人物にもあります。

主人公の折木奉太郎は、何事にも積極的に関わろうとしません。
自分がやりたくないことはやらない。
人の面倒事に巻き込まれたくない。
できるだけ人と関わらず、最低限の力で生きていく。

そんな「省エネ」を実行する奉太郎は、考え方まで省エネ。
無駄なことを省き、本筋だけを見つけ出すことに長けています。
面倒なことを嫌う性格が、逆に謎を解くための才能につながっているのが面白いところです。

・好奇心旺盛な千反田えるに振り回される

そして、奉太郎と対照的なのが千反田えるです。

千反田は名家のお嬢様で、清楚で古風な美しさを持つ女性。
頭もよく、話し方も上品です。

そんな千反田には、人一倍強い好奇心があります。
気になったことは、そのままにしておくことができません。
謎があればすぐに興味を持ち、奉太郎にも謎を解いてほしいと迫っていきます。

「省エネ」を貫きたい奉太郎と、気になったことを放っておけない千反田。
千反田に引っ張られることで、奉太郎は少しずつ「省エネ」ではいられなくなっていきます。

千反田が真剣に謎と向き合い、奉太郎が効率よく謎を解いていく。
そんな正反対の二人が、少しずつ噛み合っていくところも、この作品の魅力です。

二人のやり取りを見ているうちに、いつの間にか物語に夢中になっていました。

・「名前」にも独特の雰囲気がある

『氷菓』を読んでいると、人や物の「名前」にも独特の雰囲気を感じます。
「千反田」「奉太郎」といった珍しい名前をはじめ、
「十文字」 「百日紅」 「万人橋」 「遠垣内」
など、どう読めばいいのかわからない名前が多く登場します。

主要人物の名前さえ覚えてしまえば、読めない名前を無理に覚えなくても読み進めることはできます。
それでも、こうした珍しい名前がたくさん出てくることで、どこか名前に関して不思議な雰囲気を感じました。

そして、この本のタイトルにもなっている「氷菓」。
読み方は「ひょうか」です。
この言葉は物語の中にも登場しますが、実は「氷菓」というタイトルそのものも謎の一部になっています。
物語の最後まで読み進めて、この言葉に込められた意味が分かったときには、もう一度本のタイトルを見返したくなると思います。

・少し文学的。でも初心者にも読みやすい

『氷菓』は、小説らしい文学的な表現が多い作品です。
現代的で柔らかな言葉遣いとは少し違い、
「友達同士でこんな言葉を使うのかな?」
と感じる部分もあります。

そのため、人によっては少し堅い文章だと感じるかもしれません。
ただ、舞台が学校で、学生たちが中心となって物語が進んでいくため、内容そのものに難しさは感じませんでした。

「少ししっかりした小説を読んでみたい」
という初心者の方には、ちょうどいい作品だと思います。
ページ数も200ページ程度とそれほど多くないため、読書初心者でも挑戦しやすいボリュームです。


■まとめ

『氷菓』は、学校を舞台にした、殺人や犯罪のない学園ミステリーです。

「なぜこうなっているのか?」という小さな疑問から始まり、最終的には33年前の出来事という大きな謎へとつながっていきます。

特に面白いのは、情報が少ない中から主人公たちが当時の状況を想像し、
「こうだったのではないか?」
と推理していくところ。
読者も主人公たちと一緒に考えながら読み進めることができます。

また、「省エネ」を貫こうとする奉太郎と、好奇心旺盛な千反田という、正反対の二人のキャラクターも魅力です。

殺人事件のような刺激的なミステリーではありませんが、身近な「なぜ?」を楽しめる作品なので、怖いミステリーが苦手な方にもおすすめです。

そして、
「せっかく小説を読むのだから、しっかりした作品がいい」
という初心者の方には、ぜひ読んでみてほしい一冊です。
200ページ程度と読みやすいボリュームなので、少し文学的な表現を楽しみながら、しっかりとした小説を楽しんでいただきたいです。

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