笑えて楽しめるミステリー入門書|『謎解きはディナーのあとで』感想(ネタバレなし)

本の紹介


「お嬢様の目は節穴でございますか」
このセリフを聞いたことのある人もいるのではないでしょうか?

大富豪のお嬢様と、その屋敷に仕える執事。
圧倒的にお嬢様のほうが権力が上で、執事はいつでも首を切られる立場なのに、なぜかお嬢様に対し、とても失礼な発言をする。
ただ、その言葉には執事なりの信念があるのでしょう。

コントのような2人の掛け合いが最高な『謎解きはディナーのあとで』。
笑えるミステリー小説を楽しんでみてください。


■あらすじ

世界に名を轟かせる宝生グループ。その総帥の一人娘が宝生麗子である。
麗子はとある警察署の刑事課に所属し、職場では身分を明かさず、一人の女性刑事として仕事と向き合っていた。

麗子は3階建てのアパートに着いた。
立入禁止の黄色いテープをくぐって304号室に入ると、女性がうつ伏せで倒れていた。
被害者は25歳の女性。
デニムのスカートにカントリー風のシャツ。背中に小さなリュックを背負っていた。
ただ、1点気になるところがある。部屋にいるのにブーツを履いていた。

検死の結果、細いロープで絞め殺されたことがわかった。
周囲の目撃情報も上がってきた。
事件当時にアパートの管理人や隣人、向かいの果物屋の主人が被害者と会っていた。

事件の情報は集まってきたが、この日は何もわからず、麗子は駅に向かって歩いていた。
頭の中は事件のことでいっぱいだった。犯人は? 犯行手口は?
何も思い浮かばない腹いせに小石を蹴ったところ、停まっていた黒い高級車のドアに当たった。全長7メートルはあるリムジンだった。
まずい。

車の運転席から黒いスーツの細身の男が降りてきて、ドアの傷を見始めた。
「ごめんなさい。修理費はいくらかしら。」
男は静かに口を開いた。
「ご心配なく。せいぜい7、80万といったところでしょう。ほんのかすり傷でございます。お嬢様。」
「他人の車でなくてよかったわ。影山。」

リムジンで邸宅に戻り、軽い夕食をとったあと、夜景を見渡せる広間でくつろいでいた。
影山がワインを運んできたので、仕事の話をした。
「今は普通の殺人事件を担当しているの。少し変わってるけど。」
「詳しくお聞かせいただければ、私なりの考えをお伝えできるかもしれません。」

麗子は、この影山という若い執事の考えに興味があり、事件の詳細を語った。
「事件は昨日午後6時ごろ。殺されたのは25歳の女で――」

影山は少し考えるような表情を見せた。
「どう?何か思いつくことがある?」
「よろしいのですか? 思ったことを申し上げて。」
「もちろんよ。遠慮しないで何でもどうぞ。」
「本当になんでも申し上げよろしいのでございますね?では率直に述べさせていただきます。」

深々と一礼した影山は、ソファに座っている麗子に顔を近づけた。
「失礼ながらお嬢様―― この程度の真相がおわかりにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか。」

数秒、もしくは数分の沈黙のあと、麗子は影山のほうを向き、口を開いた。
「クビよ、クビ!」

丁寧なお辞儀をして出ていこうとする影山。麗子は苛立ちながらも影山を呼び止めた。
「はい。まだわたくしにご用でございますか。お嬢様。」
呼び止められるのが分かっていたように影山は振り返った。
「そこまで言うなら聞かせてもらおうじゃないの。」

影山は事件の真相を語った。それは麗子の満足する非の打ち所のない答えだった。


■感想

刑事であるお嬢様と毒舌執事のやり取りに最後まで楽しく読むことができました。

影山は、どんな要望にも先回りして応える、漫画のような理想の執事。
そして鋭い洞察力と推理力で事件を聞いただけで真相までわかってしまう、まさに天才です。
そして、麗子に対して丁寧な言葉でキレのある毒を吐く、正しさの中に「それ言って大丈夫?」と読者を不安にさせるところも大きな魅力です。

一方、麗子は大富豪の御令嬢ですが、よくあるわがまま三昧で人を下に見る傍若無人なお姫様ではなく、身分を隠して刑事の仕事をする、庶民的な感覚も持ち合わせた女性です。
ただ、執事の影山の前ではお嬢様っぷりが出てしまい、従順な執事をいいように使おうとしますが、それも影山に簡単にあしらわれてしまう、どこか隙のある放っておけない女性です。

この影山と麗子の掛け合いがとても面白く、本書最大の魅力に感じました。
御令嬢という立場が上の人物がボケて、執事という絶対服従の人がツッコむところに面白さが生まれ、お笑いコンビを観ているかのような楽しさが生まれます。

ここまで2人の面白さを書きましたが、本書は人間性を書いたお笑い小説ではなく、しっかりしたミステリー小説です。
難解な事件に対し、現場検証や聞き込みなど足で稼ぐ麗子と、麗子が集めた状況証拠から事件の真相を導き出す影山。
この2人が連携することで謎解きが進み、事件解決につながっていきます。

ストーリーは6つの話に分かれていて、どの話も短く1話完結となっています。
状況説明もわかりやすく描かれていて会話部分も多く、読みやすさもあります。
短い話でありながら本格ミステリーさながらの推理やトリックがありますので、ミステリーが初めての読書初心者の方に非常に向いています。

ミステリーを数多く読んでいる人にとっては、短編集であるぶん物足りなさを感じてしまうかもしれませんが、ミステリー初心者はもちろん、ミステリーファンで笑いと謎解きの両方を楽しみたい方にはおすすめできる1冊です。


■まとめ

ミステリーと聞くと、「難しそう」「頭を使いそう」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、『謎解きはディナーのあとで』は、影山と麗子の軽快な掛け合いのおかげで、最後まで楽しく読み進めることができます。

笑える会話と本格的な謎解きの両方を味わえる一冊なので、ミステリー初心者はもちろん、気軽に読める作品を探している方にもおすすめです。

ぜひ、影山の毒舌と鮮やかな推理を楽しんでみてください。

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