「学園ミステリー」と聞くと、青春ストーリーを想像する方も多いかもしれません。
しかし、『体育館の殺人』は、高校を舞台にしながらも本格的な謎解きが楽しめる作品です。
密室のような状況で起きた殺人事件。容疑者は学校関係者。そして、その難事件に挑むのは、学校に住み着く変わり者の天才高校生・裏染天馬。
個性的なキャラクター同士の軽快なやり取りと、本格ミステリーならではの論理的な推理が魅力の一冊です。
今回は、『体育館の殺人』をネタバレなしで紹介します。
■あらすじ
柚乃(ゆの)は、同じ卓球部の友人・早苗と雨の中を走り、体育館へ向かっていた。
体育館にはすでに卓球部顧問の増村と部長の佐川奈緒がおり、準備運動を始めていた。
しかし、この日はいつもと違い、ステージの幕が下りている。
やがて演劇部員が幕を巻き上げると、ステージ中央の演台にもたれかかる男子生徒の姿が現れた。胸にはナイフが突き刺さり、すでに息絶えていたのだ。
被害者は放送部部長の朝島友樹。
警察の捜査によって、朝島と二人きりになった可能性があるのは佐川だけだと判明し、容疑は彼女へ向けられてしまう。
「佐川さんが犯人のはずない。」
そう信じる柚乃は、生徒会副会長の八橋千鶴から、事件を解決できる人物がいると教えられる。
その人物とは、中間テスト全教科満点を取った天才・裏染天馬(うらぞめてんま)。
文化部部室棟の「開かずの部屋」と呼ばれる百人一首研究会の部室を訪ねると、そこにはアニメや漫画に囲まれ、学校に住み着いているような不思議な少年・裏染がいた。
最初は協力を拒んでいた裏染だったが、説得を受けて事件の捜査に参加することになる。
圧倒的な推理力で警察の捜査の矛盾を次々と指摘していく裏染。
そして自身の捜査で犯人の姿が徐々に見えてくる。
高校を舞台にした殺人事件の真相とは。
■感想
本作最大の魅力は、何と言っても裏染天馬というキャラクターです。
部室を占拠し、まるで学校に住んでいるかのようなアニメオタク。
他人には興味がなく自己中心的で、警察相手にも物怖じせず意見をぶつけます。
その一方で、全教科満点という驚異的な頭脳を持ち、柚乃を一目見ただけで事件関係者だと見抜く推理力まで備えています。
常識外れで天才的な人物ですが、決して完璧な人間ではありません。
女子に押し切られてしぶしぶ協力したり、好きなアニメについて熱く語り始めたり、自分の予想が外れると「俺は駄目だ。死ぬ。」と言い出したりする姿は、どこか普通の高校生らしさも感じられます。
そのギャップが非常に魅力的でした。
ミステリーとしても、本作は読者をしっかり悩ませてくれます。
学校という身近な場所で起きた殺人事件。多くの人がいるにもかかわらず、目撃証言も決定的な手がかりもほとんどありません。
この難事件を解くため、誰も気に留めないような小さな違和感を一つずつ積み重ね、細かなヒントが少しずつ結びついて真相へ近づいていきます。
その過程には、「なるほど!」という期待と発見の楽しさがあります。
さらに、本書には他の作品ではあまり見られない「読者への挑戦」が用意されています。
裏染天馬が真相にたどり着いたタイミングで、
「あなたは犯人がわかりましたか?」 「トリックは解けましたか?」
という作者からの問いかけがあり、読者自身が推理する時間が与えられます。
少し古いドラマですが、『古畑任三郎』を知っている方なら、ラスト直前の古畑からの問いかけを思い出すかもしれません。
視聴者自身が試されているような、あの感覚を本書でも味わえます。
登場人物の中心が高校生ということもあり、難しい表現も少なく、会話を中心に物語が進むため、読書初心者でも読みやすい作品です。
ただし、舞台が学校ということもあり登場人物はかなり多めです。
「○○部の○○」という人物が次々に登場するため、途中で「この人は誰だったかな?」となる場面が何度かありました。
幸い、本書の冒頭には登場人物一覧が掲載されているので、私は何度も見返しながら読み進めました。
一部のレビューでは、「トリックがチープ」「少し無理がある」といった意見も見られます。
しかし、私はそのようには感じませんでした。
多くのミステリー作品を読んできた人や推理に慣れた人であれば気になる部分があるのかもしれませんが、読書初心者にとっては十分に驚きがあり、最後まで楽しめる内容だと思います。
本作は、少し駄目な一面を持ちながらも天才的な頭脳で事件を解決する裏染天馬というキャラクターの魅力が詰まった作品です。
裏染天馬を主人公とした続編も刊行されていますので、気になった方はぜひ本作から読んでみてください。
■まとめ
『体育館の殺人』は、本格的な謎解きと個性的なキャラクターが楽しめる学園ミステリーです。
複雑な事件を論理的に解き明かしていく面白さはもちろん、主人公・裏染天馬の天才でありながらどこか人間味のある姿にも引き込まれます。
また、「読者への挑戦」が用意されているため、自分自身で推理しながら読む楽しさも味わえます。
「本格ミステリーを読んでみたいけれど、難しそう」と感じている方や、「個性的な探偵役が活躍する作品が好き」という方には特におすすめの一冊です。
裏染天馬シリーズはこの作品から始まります。気になった方は、ぜひ『体育館の殺人』から読んでみてください。
