この作品はタイトルと表紙を見てわかる通り、『不思議の国のアリス』を題材に描かれています。
『不思議の国のアリス』を知っている人であれば、興味がわくのではないでしょうか。
登場するキャラクターもアリスに出てくる人物や動物たちなので、イメージしやすく親しみやすさがあります。
『不思議の国のアリス』を知らない人でも問題ありません。ストーリーはオリジナルなので、ミステリー小説として楽しめます。
逆に、本書がキッカケで原作に興味を持つかもしれません。
■あらすじ
大学に通う栗栖川亜理(くりすがわ あり)は、最近よく見る夢があった。
不思議の国に迷い込んだ『アリス』という少女の夢だった。
その場所では動物たちが言葉を話す。ただ、会話を理解する能力が極端に欠けていた。
トカゲのビルがアリスに言った。
「合言葉を決めよう。」
敵か味方か見分けるためには、合言葉が必要らしい。でもアリスは不思議に思った。
「決める必要ないんじゃない? だって私は味方でしょ?」
「決めなきゃ、アリスが味方だってわからない。」
「それじゃ、私は敵でもいいわよ。」
「それは困る。アリスは味方だから。」
「ほら。味方だってわかってるでしょ?」
「いいや。味方かどうかわかるために、合言葉が必要なんだ。」
この国の人は、なんて面倒なんだろう。
「じゃあ、合言葉を教えて。」
「僕が『スナークは』って言うんだ。そしたら君は……」
「『ブルージャムだった』ね。」
「なんで知ってるの?」
そんな話をしていると、女王の家来たちと馬が叫びながら駆け抜けた。
「大変だぁ!」
どうやら、塀からハンプティ・ダンプティが落ちたらしい。
現場に行くと、白い殻のようなものと赤黒い何かが飛散していた。
ハンプティ・ダンプティの周りには三月兎と帽子屋がいて、何かを調べている。犯罪捜査をしているらしい。
アリスが、
「塀から落ちたのなら事故なのでは? 自殺の可能性はない?」
と聞くと、帽子屋が言った。
「ハンプティ・ダンプティは殺されたのだ。」
自殺じゃない証拠があるという。塀に油が撒いてあり、殻には手形が付いていたのだ。
「犯人を見つけなくていいの?」
アリスが聞くと、帽子屋は
「誰かが犯人だろう。殺人事件なんだから」
と言った。
三月兎は、「油まみれで気持ち悪い」と言いながら、白い殻に付いた手形を洗剤で拭き取っていた。
「何してるの!」とアリスは叫んだ。
「こんなの誰だって気持ち悪いだろ?」
「殺人事件の証拠が消えちゃうでしょ!」
「殺人事件? 誰が殺されたの?」
「ハンプティ・ダンプティよ!」
「なぜハンプティ・ダンプティが殺されたことを知っているのだ?」
「さっき塀から落ちたって言ってたでしょ?」
「塀から落ちたことは、犯人しか知り得ない情報だ。」
もう不思議の国の住人の思考回路がわからない。しかし、徐々にアリスは疑われてしまう。
「あんたにアリバイはあるのか?」
私はトカゲのビルとずっと一緒にいた。ビルが証明してくれるはず。
帽子屋の問いかけにビルは答えた。
「アリスは塀から落ちたことを知っていたよ。」
アリスの期待とは逆のことを言った。
「状況証拠から見て、犯人は決まりだ。」
この国の裁判官は女王陛下。女王が有罪と言えば、首切りの刑になる。
このまま捕まれば、アリスは死刑になってしまう。
亜理が目を覚ました。最近はこの夢ばかり見る。リアルな夢だった。
あれは本当のこと? 大丈夫かしら?
亜理は少し不安を覚え、夢の内容を日記に書き留めた。
「合言葉は『スナークはブルージャムだった』」
「ハンプティ・ダンプティは殺された」
学校に行くと、見知らぬ人や警察がいてとても慌ただしかった。
先輩である田中李緒がいたので何があったのか聞くと、中之島研究室の王子玉男(おうじ たまお)が屋上から落ちたという。自殺のように見えるが、王子玉男は自殺するような人ではないそうだ。
その後、研究に使う実験装置を借りるため井森建を訪ねると、井森は事件を目撃していて、王子は何かに抵抗しているように見えたあとに落下したらしい。
そして、亜理にこう告げた。
「君が関わっているような気がする。」
亜理は意味がわからなかった。
「私が関わっている証拠があるの?」
井森はゆっくりと口を開き、亜理にある言葉を伝えた。
亜理は、井森の口から出た言葉を聞いた瞬間、全身にとてつもない衝撃が走ると同時に悪寒を覚えた。
そして、不思議の国にいる夢と現実が繋がっていることに気付く。
不思議の国の出来事と同じように、王子玉男は落下して死亡した。
不思議の国の中でアリスが死ねば、現実世界でも死んでしまう。
アリスの無実を証明するために、亜理は夢と現実、両方の世界から推理を始める。
■感想
とんでもない本に出会ってしまいました。
私は『不思議の国のアリス』について、内容はほとんど知らず、登場人物としてアリス、ハートの女王、トランプの兵隊が出てくるくらいしかわかっていませんでした。
ただ、子どもと一緒にディズニーアニメを見たりしていたので、ディズニー関連の作品には興味がありました。
それで、評価が高かった本書を知り読んでみたのですが、とにかく混乱しました。
この物語はほとんど会話形式で進むのですが、あらすじを読んでいただけるとわかるように、会話が成り立っていません。
今まで読んだ小説では、会話形式が多いほうが感情や状況がわかりやすく、読みやすい印象がありました。しかし、この本ではそれが通用しません。
1回の会話の中で話が二転三転し、言っている意味がわからない、なぜそうなるのかわからないまま話が進んでいきます。
不思議の国での会話を真面目に受け止めながら読んでいると、ものすごくストレスが溜まります。
寛大な心を持って、受け流しながら読むことをオススメします。
ただ、これこそが本書の魅力であり、『不思議の国のアリス』の世界観を取り入れた、他の作品にはない個性的な1冊になっているのだと思います。
ストーリー自体はしっかりミステリー仕立てになっていて、終盤にはどんでん返しが待っています。
どんでん返しのあとに話を振り返ると、「確かにそうだったかも」と思えますが、初見でトリックに気付ける人はかなり少ないと思います。
この物語はどんでん返しのあとに来る結末のほうが印象的です。
グロいです。
作中にはグロテスクな表現が何度かありますが、最後の場面はかなり痛々しく、目を背けたくなるような描かれ方をしています。
グロ系が苦手な方は注意してください。
本書は、内容が理解しにくく、会話にストレスを感じること、グロい描写があること、異質なミステリーであることから、途中で読むのをやめてしまうかもしれません。
頑張って読み切ることを目標にできれば良いのですが、読書初心者の方には難しい作品だと思います。正直、初心者の方にはオススメできません。
しかし、『不思議の国のアリス』という入りやすい題材であり、ファンタジーを含んだストーリー自体は現実離れしていてとても面白いです。
奇抜な作品を探している方、グロい内容が好き、もしくは平気な方、どんな内容でも広い心で受け止められる方には、ぜひ読んでもらいたい作品です。
■まとめ
『アリス殺し』は、読書初心者にはかなり難しい作品だと思います。
会話のクセが強く、「何を言っているのかわからない」と感じる場面も多いため、合わない人は途中で挫折してしまうかもしれません。
ただ、その独特な世界観や、終盤のどんでん返しには強い魅力があります。
「普通のミステリーでは物足りない」「変わった作品を読んでみたい」という方には、印象に残る1冊になると思います。

