宮部みゆきさんの『火車』は、社会派ミステリーの名作として今でも人気の高い作品です。
「ミステリー」と聞くと、犯人当てやトリックを想像する方も多いかもしれません。
しかし本作は、失踪した婚約者を追ううちに、現代社会が抱える闇や人間の悲しさが少しずつ明らかになっていく作品です。
私も名作という評判を聞いて手に取りましたが、読書初心者の立場では少し難しく感じる部分もありました。
今回は、ネタバレなしで『火車』のあらすじと、読書初心者として感じた率直な感想をご紹介します。
■あらすじ
刑事である本間俊介は足の怪我のため休職中であった。
妻は数年前に事故で亡くなり、息子の智と2人で暮らしていた。
刑事という職業がら家を留守にすることもあったため、同じ団地に住む伊坂恒男がいつも智の世話をしに来てくれていた。
ある日、本間のところに妻の親戚の栗坂和也が訪れてきた。
妻が亡くなる以前からあまり会うことはなかったが、まったく面識が無いわけではなかった。
妻の葬式にさえ来なかった和也が突然来たことに驚いたが、和也の顔が思わしくないところを見ると、久しぶりに会いに来たというわけでは無さそうだ。
和也の話を聞くと、調べてほしいことがあり、刑事である本間を訪れたという。
婚約者が突然失踪したため、探してほしいとの依頼だった。
婚約者の名前は関根彰子。
ある日、和也はクレジットカードを1枚も持っていない彰子に不便だろうと思い、カードを作るように提案した。
しかし、彰子はみるみる曇っていった。
彰子とクレジットカードの話を銀行に勤める知人に相談し、その後、知人から和也に連絡があった。
彰子との婚約は考え直したほうがいいと言ってきたのだ。
知人が調べたところ、彰子は金融系のブラックリストに載っていて、過去に自己破産をしているというのだ。
和也はそのことが信じられず、事実なのかどうか彰子に直接聞いてみた。
彰子の表情が変わっていった。過去に色々あったと言うが、詳しくは語らない。
その直後に彰子は失踪した。
本間は休職中であったが、歩けないわけではなく、時間にも余裕があったため、和也の話を調べることにした。
彰子の足取りや過去の経緯を探るため、本間は彰子に関連する場所に行ってみることにした。
まずは彰子の勤め先に行くと、従業員3人のとても小さな会社であったが、社長は本間を快く迎えてくれた。
彰子がどんな経歴を持っているのかを調べるため、履歴書を見せてもらうと、何回も転職していることがわかった。
前職の仕事場の人からも話を聞こうと思い、履歴書に書かれている会社に連絡してみると、思いもよらない回答が来た。
その会社に関根彰子という人物が在籍していた記録は無かった。
更にその前の職場にも連絡したが、彰子を知る人はいなかった。
彰子の履歴書の内容はデタラメだったのだ。
彰子に関係する場所を訪れると、行く先々で衝撃の事実が明らかになっていく。
関根彰子とは、いったいどんな人物なのだろうか。過去に何があったのだろうか。
■感想
この本は、正直なところ、私には少し難しく感じました。
読書初心者の私がこの本に挑むには、時期が少し早かった気がします。
この物語はローン地獄やカード破産といった普段あまり目にすることがない社会の負の部分に焦点を当てています。そして、この負の部分に落ちていった人がどうなっていくのかを描いた作品です。
お金のことでのトラブルや犯罪といったことは、いつ自分の身に起きてもおかしくないはずなのに、なぜか目を背けたくなってしまいます。
通常のミステリー作品では犯人が分からない状態から始まり、ヒントを集めてトリックを暴き、犯人を見つけ出すといった推理要素があります。
しかし、本作は失踪者の捜索がメインで、最初から対象人物が分かっています。
聞き込みなどの情報を集めながら物語が進展していくので、一般的なミステリーと比べると、推理要素は少なく感じました。
ただ、新しい情報を得るたびに、それまで予想していた状況が覆され、どんどん謎が深まっていくところに、この物語の面白さがあるのだと思います。
作中の文章ですが、特に難しい表現はなく状況や感情が細かく描かれていますので、初心者の方でも理解しやすく読みやすい印象です。
ただ、新情報が出てくることで話の展開が変わる場面が何度か訪れます。読者を驚かす場面なので、これは本書の魅力であり評価されている部分になりますが、初心者にとっては話が長く、なかなか答えにたどり着かず、迷宮入りしたまま物語が進んでいくような感じがしました。
本書のボリューム自体もかなりあり、途中で疲れて離れてしまう人も多いのではないかと思います。
物語の結末も少し変わっていて、本作のラストは、すべてを明確に描ききる形ではありません。
読者の想像に委ねるような形で幕を閉じます。
この終わり方は賛否両論あるらしいですが、初心者の方にとっては読み切るだけで精一杯になってしまい、話を明確に描ききらない終わり方に、その後どうなったのかを想像する余力は残っていないと思います。
本作は読書に慣れた方であればストーリーに魅力を感じ、名作と評価される理由がわかる作品だと思います。
一方で、読書初心者の方にはボリュームや展開の重さから少しハードルが高いかもしれません。
まずは読みやすい作品から経験を積み、読書に慣れた頃に挑戦すると、本書の魅力をより深く味わえるのではないかと思います。
■まとめ
『火車』は、単なる犯人探しのミステリーではなく、現代社会が抱える問題や人間の弱さを描いた社会派ミステリーです。
読み進めるほど謎が深まり、「この先どうなるのだろう」と引き込まれる魅力があります。
一方で、物語のボリュームやテーマの重さ、独特の展開から、読書初心者には少し難しく感じるかもしれません。
私自身も最後まで読んで、今の自分には挑戦するには少し早い感じがした作品でした。
読みやすいミステリーを楽しめるようになり、少し骨太な作品にも挑戦してみたいという方には、ぜひ一度手に取ってほしい一冊です。

