「事故物件って、実際にはどんなものなんだろう?」
そんな疑問を一度でも持ったことがある人なら、気になってしまうのが「事故物件」ではないでしょうか。
誰もいないのに音や声が聞こえる部屋や、心霊現象が起きると噂される家。
できれば住みたくはありませんが、そこでは一体何が起きているのか、つい知りたくなってしまいます。
皆藤黒助さんの『事故物件探偵 建築士・天木悟の執心』は、そんな事故物件を舞台に、建築士が心霊現象の謎を追っていく物語です。
霊が見える女子大学生と、事故物件に飛びつくクールな建築士。
ちょっと変わった二人が、心霊現象の起きる物件を調査していきます。
■あらすじ
中学生の織家紗奈(おりや さな)は、修学旅行先で見かけた一軒の白い家に心を奪われます。
住宅展示会が開かれていたその家を眺めていた織家に声をかけてきたのが、天木悟(あまき さとる)でした。
天木は、その白い家を設計した建築士であり、天木建築事務所の代表でもあります。
それから数年。
大学の建築学科へ進学した織家は、憧れの天木建築事務所で働くことを目標に、建築士を目指していました。
そんな織家の前に、思いがけず天木が現れます。
大学の講義に招かれた講師が、あの天木だったのです。
憧れの人と数年ぶりの再会に心がときめく織家。
しかし、さらに驚かされたのは、天木から告げられたひと言でした。
「君、霊が見えるのだろう?」
実は織家は霊感が強く、幼い頃から霊が見えるという悩みがありました。
霊が見えても良いことはなく、恐怖する日々を送ってきたのです。
そんな織家に、天木は自分の建築事務所でのアルバイトを持ちかけます。
天木は事故物件をはじめとした、心霊現象などの曰くがある「心理的瑕疵物件」を調査していたのです。
憧れの天木からの誘い。
しかし、心霊現象が起きる事故物件を調査するとなれば、できれば断りたい。
迷いながらも、お金に困っていた織家はアルバイトを引き受けることになります。
こうして二人は、心霊現象が起きる物件の調査を始めます。
階段を一段ずつ上ってくる足跡。
人の血を吸う家。
次々と起こる不可解な現象に対して、二人は建物や間取りなどから、その原因を探っていきます。
果たして、これらの心霊現象にはどんな理由があるのでしょうか。
■感想
・心霊現象の謎を追う「事故物件ミステリー」
事故物件と聞くと、どうしても「怖い話」を想像してしまいます。
人が亡くなった部屋や、幽霊が出ると噂される家。
実際に引っ越しをするとなれば、できるだけ避けたいと思う人も多いのではないでしょうか。
本作では、そんな事故物件を物語の中心に据えています。
ただし、単純な怪談ではありません。
「なぜ、この家ではこんな現象が起きるのか?」
という謎を、建築士である天木が建物や間取りなどから調べていきます。
心霊現象を扱っているにもかかわらず、建築という現実的な視点から謎に迫っていくところが、本作の面白さです。
・謎解きというより「不思議な現象」に引き込まれる
本作には、心霊現象がなぜ起きているのか、その原因を探る謎解きがあります。
ただ、一般的なミステリーのように、読者が作中のヒントを集めて「自分で真相を当てる」というタイプとは少し違います。
間取り図や建物の構造などから、天木が心霊現象の原因を推測していきます。
しかし、心霊現象は住人の過去や建物が建てられた経緯に原因があり、建築の観点は謎解きの補助的な感じになっています。
そのため、論理的に謎解きを楽しみたい人には、少し物足りなく感じる部分があるかもしれません。
また、心霊現象についても、科学的に説明されるわけではありません。
「原因はこれです」と完全に割り切れるものばかりではないところも、本作の特徴です。
個人的には、ここがむしろ面白いところでした。
「これはいったい何なんだろう?」
と、答えがあるのか、ないのか分からない不思議な現象に引き込まれていきます。
科学的に説明できる謎を解いていくというより、不可解な出来事そのものを追いかけていく楽しさがあります。
・天木と織家の掛け合いが読みやすい
本作を読みやすくしている大きな要素が、天木と織家のキャラクターです。
建築士の天木はクールで冷静。
一方の織家は霊が見えるにもかかわらず、怖がりな一般的な女子大学生です。
霊が見えるが怖がりな女子大学生と、霊感は無いが心霊現象に興味がある建築士。
そんなチグハグな二人が事故物件を調べていくため、自然と二人のやり取りも楽しめます。
文章も読みやすく、物語の展開も追いやすいので、普段あまり小説を読まない人でも読み進めやすい作品だと感じました。
・ホラーが苦手でも読みやすい心霊ミステリー
「心霊現象が出てくるなら、怖そう……」
そう思う人もいるかもしれません。
しかし、本作は怪談のような恐怖を前面に出した作品ではありません。
突然、霊が襲いかかってきたり、何の前触れもなく恐ろしいものが現れたりするような、背筋が凍るタイプのホラーとは少し違います。
音がする、声が聞こえるといった、ありがちな心霊現象の原因を探るといった内容です。
そのため、心霊ものが苦手な人でも比較的読みやすい作品だと思います。
逆に、怖い怪談や本格的なホラーを期待して読むと、少し物足りなく感じるかもしれません。
「怖い話を読む」というより、事故物件で起きる不可解な現象を覗いてみるくらいの感覚で読むと楽しみやすいと思います。
■まとめ
事故物件という、誰もが少し気になってしまう題材を使い、そこに「建築士」と「霊感のある女子大学生」という組み合わせを加えた、ちょっと変わったミステリーです。
心霊現象の原因を探る謎解きがある一方で、すべてが科学的に説明されるわけではありません。
そのため、謎解きを自分で推理するというよりも、
「この家では何が起きているんだろう?」
という不思議さを楽しむ作品だと感じました。
文章も読みやすく、天木と織家の掛け合いも心地よいので、ミステリー初心者にもおすすめしやすい一冊です。
心霊ものに興味はあるけれど、怖すぎる作品は苦手。
そんな人にも読みやすい作品ではないでしょうか。
そして何より、読み終わると「この二人の調査をもっと見てみたい」と感じます。
本作には続編もあるので、そのまま続きを読みたくなってしまうぐらい、面白い作品でした。
