ポイントを稼いで卒業を目指す、大学が舞台の特殊なミステリー|『卒業のための犯罪プラン』感想(ネタバレなし)

怖くないミステリー

「大学を卒業するために、ポイントを稼がなければならない」

そんな一風変わった設定から始まるのが、浅瀬明さんの『卒業のための犯罪プラン』です。

舞台となるのは、優秀な商売人を育成するためにつくられた特殊な大学。
この大学では、一般的な大学にはない「事業ポイント」という学内限定の通貨が使われています。

学生たちはサークルを企業のように運営し、サービスを提供したり、商売をしたりしながらポイントを獲得していきます。
そして、ポイントを多く稼ぐことができれば早く卒業でき、逆にポイントが足りなければ留年するという、かなり特殊な仕組みになっています。

殺人や凶悪犯罪が登場するタイプのミステリーではありません。
それでも、ポイントをめぐる駆け引きや不正、相手の考えを読みながら進める戦略には、ミステリーらしい面白さがあります。

今回は、そんな『卒業のための犯罪プラン』を読んだ感想を書いていきます。

※この記事では作品の内容に触れていますが、重要なネタバレは避けています。


■あらすじ

優秀な商売人を育成するために設立された、木津庭特殊商科大学。
通称「庭大」と呼ばれるこの大学には、一般的な大学にはない独自の制度があります。
それが「事業ポイント」です。

事業ポイントは学内限定の通貨で、学生たちは学内で労働をしたり、サービスを提供したりすることでポイントを獲得できます。

そして、このポイントをどれだけ持っているかによって学生の評価が決まります。
ポイントを多く稼ぐことができれば、4年間の在学を待たずに卒業することもできます。
反対に、ポイントが少なければ留年することになります。

さらに庭大では、大学のサークルも普通の大学とは大きく違います。
サークルは営利を目的とした企業のような組織になっていて、学生たちはそれぞれの事業を行いながらポイントを稼いでいます。

ただし、事業を行うには学校に届け出て承認を受けなければなりません。
学校側はサークルを監視し、決められた事業以外で獲得したポイントは没収されてしまうため、学校の目を盗んで不正にポイントを稼ごうとするサークルも存在します。

そんな庭大に通う2年生の降町歩。
大学に入ってから1年以上経っていますが、授業以外では学外でアルバイトをしていたため、事業ポイントについては詳しくありませんでした。

ところが、家庭の事情によって、降町は今年中に卒業するか、退学しなければならない状況になってしまいます。
卒業するためには、あと半年で必要な量のポイントを稼がなければなりません。

そんな降町に、親しい先輩からある話が持ちかけられます。
それは、不正を摘発するゼミに入ることでした。

不正を行っているサークルを見つけ、摘発することでポイントを稼ぐ。
卒業のために、その道を選んだ降町は、あるサークルへ身分を隠して潜入します。

しかし、そこで不正を探っていることが相手に知られてしまいます。
そして降町は、そのサークルの熊倉凛子から、逆に不正を持ちかけられることになります。

卒業するために、正しい方法でポイントを稼ぐのか。
それとも、危ない橋を渡って大量のポイントを獲得するのか。

降町と熊倉、それぞれの思惑が交錯しながら、卒業に向けたポイント獲得の戦略が始まります。


■感想

・殺人がなくても楽しめるミステリー

ミステリー小説というと、
「殺人事件が起こって、探偵が犯人を推理する」
という作品を思い浮かべる人も多いと思います。
私もミステリーを読み始めたころは、そんなイメージを持っていました。

しかし、『卒業のための犯罪プラン』には、一般的なミステリーでイメージするような殺人事件はありません。
それでも、私はミステリーとして楽しむことができました。

その理由の一つが、登場人物たちの立場です。
主人公の降町が所属するのは、不正を摘発するゼミ。
これは、いわば警察や探偵側の立場です。

一方、降町が潜入するサークルでは、学校に隠れて不正を行おうとしています。
こちらは、犯罪者側の立場に近いものがあります。

そして主人公自身が、その両方の立場に関わることになります。

「相手は何を考えているのか」
「どうすればポイントを稼げるのか」
「この行動にはどんな意図があるのか」

そんなことを考えながら読み進めるため、殺人事件がなくても、ミステリーらしい駆け引きを楽しむことができました。

・大学の中で「お金を稼ぐ」ということを考える

この作品を読んでいて面白いと感じたのが、「お金を稼ぐ」ということについて考えさせられるところです。

舞台は特殊な大学ですが、そこで行われていることは、
「どうすれば商品やサービスが売れるのか」
「どうすれば相手に必要だと思ってもらえるのか」
「どうすれば利益を生み出せるのか」
といった、現実の商売や経営にもつながるものです。

大学内では、一部の才能ある学生たちがサークルを大きくしたり、人の心理を考えて商品を作ったり、才能がない人が不正をしてでもポイントを稼ごうとしたりします。
それぞれの思惑や戦略を見ていると、大学の中で「世の中のお金の流れ」を見ているような感覚になります。

特に、商売や経営、事業運営などに興味がある人なら、こうした部分を面白く感じるのではないでしょうか。

反対に、普段からお金や経営についてあまり興味がない人にとっては、少し難しく感じる部分もあると思います。

・難しい経営戦略を「大学」という舞台でわかりやすくしている

商売や経営、取引というと、どうしても難しいイメージがあります。

しかし、この作品では、それらを「特殊な大学」という限られた世界の中で描いています。
そのため、登場する経営戦略や不正行為も、学生たちが行える範囲のものとして描かれています。

現実の企業を舞台にした経済小説のような、難しい経営の話ばかりではありません。
また、学生たちの会話や心境も多く描かれているので、経営の参考書を読んでいるような堅苦しさもありません。

「商売や経営を題材にしているけれど、ちゃんと小説として読める」
というところは、この作品の読みやすさにつながっていると感じました。

・覚えることが多く、初心者には少し難しい

一方で、私が読んでいて難しいと感じた部分もありました。
それは、とにかく覚えておくことが多いことです。

例えば、
・事業ポイントについての学校独自のルール
・作品内で使われる独自の言葉
・それぞれのサークルの事業内容
・サークルの活動状況
・登場人物の名前や性格
・学生たちが考えた発明品
・登場人物のこれまでの経緯や実績
・経営戦略
・交渉のテクニック
など、さまざまな情報が登場します。

そのため、流れに沿って物語を読むだけでは、
「この人は誰だった?」
「このサークルは何をしていたんだっけ?」
「今は何をしているのだったっけ?」
となってしまうことがあります。

私自身も、しっかり内容を理解しながら読まないと、途中で話についていくのが難しいと感じました。

ミステリー初心者が気軽に読むというよりは、ある程度小説を読み慣れていて、登場人物の状況や感情、会話の裏側まで考えながら読める人のほうが楽しみやすい作品だと思います。


■まとめ

『卒業のための犯罪プラン』は、殺人事件や凶悪犯罪が起こる一般的なミステリーとは少し違った作品です。
舞台は特殊な大学。
学生たちは「事業ポイント」を稼ぐためにサークルを運営し、不正を行う者、それを摘発する者、それぞれが自分の目的のために戦略を巡らせます。

そのため、
「次はどうやってポイントを稼ぐのか?」
「相手は何を考えているのか?」
と考えながら読むことができます。

また、作品の中では商売や経営、取引、人の心理などが描かれているため、単純な謎解きだけではなく、「お金を稼ぐとはどういうことなのか」という部分も楽しめる作品でした。

ただし、独自のルールや用語、登場人物、サークルなど、覚えておくことはかなり多いです。
そのため、初めて小説を読む人や、気軽にミステリーを読みたい人には、少し難しく感じるかもしれません。

逆に、
「普通のミステリーとは違う作品を読んでみたい」
「商売や経営を題材にした小説に興味がある」
「登場人物の策略や駆け引きを楽しみたい」
という人には、面白く感じられる作品だと思います。


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