「もし、シャーロック・ホームズが女性だったら?」
そんな発想から生まれたのが、高殿円さんの『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』です。
本作は、コナン・ドイルの名作『シャーロック・ホームズ』シリーズを大胆にアレンジした作品。
舞台は原作のヴィクトリア朝のロンドンではなく、2012年の現代ロンドン。
そして、シャーロック・ホームズは「シャーリー・ホームズ」という女性になり、ワトソンも「ジョー・ワトソン」という女性として登場します。
さらに、人工心臓やAIなど、SF的な要素まで加わっています。
「ホームズの雰囲気を手軽に感じてみたい」と思って読み始めたのですが、現代風にアレンジされた設定が面白く、最後まで一気に読み進めることができました。
今回は、そんな『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』を、ネタバレなしで紹介します。
■あらすじ
2012年、オリンピック開催に沸くロンドン。
アフガニスタンから帰国した元軍医のジョー・ワトソンは、除隊したものの仕事が見つからず、生活に困っていました。
病院の採用面接に赴き、軍医として戦場で培った経験と度胸を強みに面接に挑みますが、なかなかうまくいきません。
住む場所も寝る場所もないジョーは、ある病院へ向かいます。
しかし、そこで向かった先はなんと死体安置所。
今夜はここで寝ることにします。
軍医だったジョーは死体と一緒に寝ることに抵抗がなく、むしろ空調設備が整ったこの場所を快適だと感じていました。
そんなジョーが、興味本位で隣に横たわる死体袋を開けてみると、中には20代くらいの彫刻のように美しい女性が入っていました。
ところが翌朝、その女性は突然動き始めます。
この女性こそ、シャーリー・ホームズでした。
美しい容姿を持ちながら、人工心臓を抱えた特殊な身体。
初対面のジョーを観察するだけで、その経歴を次々と言い当ててしまう鋭い洞察力。
さらに、死体安置所で寝起きすることもあるという、かなり変わった人物です。
そしてシャーリーは、天才的な頭脳と最先端のAIを駆使し、国家のために行動する「世界唯一の顧問探偵」だったのです。
二人が同じ部屋で生活するようになったある日、女刑事グロリア・レストレードから事件を解決してほしいと依頼を受けます。
ロンドンでは、同時刻に別々の場所で、血色のいい綺麗な遺体が相次いで発見されていました。
どこか嬉しそうに事件の調査に乗り出すシャーリー。
そして、彼女に連れられる形で事件に関わることになったジョー。
こうして、シャーリー・ホームズとジョー・ワトソンの初めての事件が始まります。
■感想
・ホームズを知らなくても楽しめる?
本書の1ページ目は漫画調になっていて、二人の女性が描かれています。
その冒頭には、本作がコナン・ドイルのホームズ譚を現代に移し、キャラクターを女性にした物語であることが書かれています。
私は海外作家の作品は難しそうというイメージがあり、実はシャーロック・ホームズをまだ読んだことがありません。
ただ、世界的に有名な作品なので、読書に慣れてきたらいつか読んでみたいと思っていました。
そんなときに本書を手に取り、1ページ目を見て、
「この本なら、ホームズ初心者でも雰囲気を楽しめるかも」
と思い、読んでみました。
実際に読んでみると、シャーロック・ホームズの原作を知らない私でも、特に困ることなく物語を楽しむことができました。
シャーリーとジョーが出会うところから物語が始まるので、二人の関係性も最初から描かれています。
もちろん、原作を知っているほうが楽しめる部分はあります。
「このキャラクターは、もしかしてあの人物?」
「この設定は原作のあれが元になっているのかな?」
と、原作との違いを探しながら読むのも、本作の楽しみ方の一つだと思います。
ただ、私のように原作を読んだことがない人でも、現代版のホームズミステリーとして十分楽しめる作品でした。
・とにかく女性が中心の物語
本作を読んでまず感じたのは、とにかく女性が中心になっている物語だということ。
登場人物の多くが女性で、探偵も助手も警察も事件の被害者も、さまざまな立場の人物が女性として描かれています。
そして、事件そのものにも女性ならではの視点が強く反映されています。
男性である私には、普段読んでいるミステリーとは少し違った感覚があり、ところどころ話についていくのに苦労する場面もありました。
ただ、それこそが本作の特徴でもあります。
単純にホームズとワトソンの性別を入れ替えただけではなく、女性になったことで登場人物の関係性や事件の見え方まで変わっている。
そのため、これまで読んできたミステリーとは少し違った印象を受けました。
・シャーリー・ホームズがとにかく個性的
本家のシャーロック・ホームズを読んだことがない私でも、ホームズが天才的な推理力を持つ探偵で、ワトソンがその相棒であることくらいは知っています。
そして本作でも、シャーリーの名推理とジョーのサポートという、ホームズとワトソンを思わせる二人の活躍が描かれます。
シャーリー・ホームズは、観察力と推理力に優れた天才探偵。
周囲のことをあまり気にせず、自分の興味や推理を優先する一方で、一般人の感覚をあまり理解できないところがあります。
圧倒的な天才だからこその独特な感覚。
そんなシャーリーだからこそ、彼女が導き出す推理にも説得力があります。
「普通の人には見えないものが、この人には見えている」
そんな天才探偵らしさが、シャーリーの大きな魅力だと思いました。
・ジョー・ワトソンも魅力的
一方のジョー・ワトソンは、シャーリーとはかなり対照的です。
医者ではありますが、いわゆる天才ドクターというわけではありません。
仕事に就けずギリギリの生活をしていたり、男性との関係によって行動を決めてしまったりと、一般人に近い感覚を持っています。
しかし、ジョーには軍医として戦場に赴き、多くの人の生死に触れてきた経験があります。
自分自身も死線をくぐってきたからこその精神力と忍耐力を持っているのです。
天才的な頭脳を持つシャーリーと、豊富な経験と精神力を持つジョー。
この対照的な二人だからこそ、いいコンビになっているのだと思います。
・二人の関係性が面白い
本作で特に面白かったのが、シャーリーとジョーの関係性です。
シャーリーが自由奔放に行動し、ジョーがそれに振り回される。
そんな二人のやり取りには、思わず笑ってしまう場面もあります。
しかし、単純な「名探偵と助手」という関係だけではありません。
同じ部屋で生活し、事件を一緒に追いかける中で、少しずつお互いのことを知っていきます。
最初はまったく違うタイプに見える二人ですが、相手のことを理解し、認め合っていく。
そんな二人の関係が、事件の謎とは別の楽しみになっていました。
・ホームズ×SFという設定が面白い
本作の舞台は、2012年の現代ロンドンです。
スマートフォンやインターネットなど、現代ならではの道具が登場します。
しかし、それだけではありません。
AIや自動運転、空間投影など、近未来を感じさせる技術も登場します。
シャーリー自身も人工心臓によって生きながらえているという設定です。
「現代にホームズがいたら?」
というだけでも面白いのですが、そこにSFの要素を加えているところが本作の面白いところ。
未来の技術を使いながら事件の真相を追いかけていくため、一般的なミステリー作品とは違った新鮮さがあります。
・本格ミステリーというより、世界観を楽しむ作品
本作はもちろん殺人事件を扱ったミステリーです。
ただ、個人的には「犯人は誰なのか?」という謎解きだけを楽しむ作品というより、作者が作り上げた新しいホームズの世界を楽しむ作品という印象が強かったです。
女性がメインのキャラクターたち。
現代のロンドンで活躍するホームズ。
人工心臓やAIなどSF要素。
こうした要素が組み合わさることで、独特の世界観が作られています。
そのため、王道の本格ミステリーを期待するというより、
「ちょっと変わったミステリーを読んでみたい」
「ホームズ作品を現代風にアレンジした物語を読んでみたい」
という人に向いている作品だと思います。
そして何より、私のようにホームズ原作を読んだことがない人でも楽しめたので、「ホームズを読んでみたいけれど、ちょっと難しそう」と感じている人が最初に手に取ってみるのも面白いと思います。
■まとめ
『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』は、シャーロック・ホームズを大胆に女性化し、現代ロンドンを舞台にした個性的なミステリーです。
シャーリー・ホームズの強烈なキャラクター、ジョー・ワトソンとの掛け合い、そして原作を思わせる登場人物たち。
さらに人工心臓やAIといったSF的な要素も加わり、一般的なホームズ作品とはひと味違った物語になっています。
特に、
・シャーロック・ホームズに興味がある人
・個性的な探偵が登場する作品が好きな人
・普通のミステリーとは少し違った作品を読んでみたい人
におすすめしたい作品です。
「シャーロック・ホームズを女性にしたら、どんな探偵になるのか?」
そんな大胆な発想から始まる本作。
女性を中心とした登場人物や、女性ならではの視点で描かれる事件など、これまで読んできたミステリーとは違った面白さがありました。
原作を知っている人はもちろん、私のようにホームズをあまり読んだことがない人も、新しい「ホームズ物語」として楽しんでみてはいかがでしょうか。
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