「教育の神様」の本当の姿に迫る異色のミステリー|『神様の裏の顔』感想(ネタバレなし)

本の紹介

「本当にこの人は善人だったのだろうか?」

『神様の裏の顔』は、お通夜の席で交わされる何気ない会話から、一人の人物の本当の姿が少しずつ明らかになっていく異色のミステリーです。

教育の神様のお通夜の会場で出てくる故人との思い出話。
参列者それぞれの思い出が妙な形でつながっていき、新しい話が出るたびに印象が何度も覆され、ページをめくる手が止まらなくなります。

さらに、シリアスな展開の中に思わず笑ってしまうユーモアも散りばめられており、ミステリーとコメディが絶妙に融合しているのも本作の魅力です。

今回は、藤崎翔さんの『神様の裏の顔』のあらすじと、ネタバレなしで読んだ感想をご紹介します。


■あらすじ

元教師・坪井誠造が亡くなった。享年68。死因は心不全だった。

坪井誠造はどんな教え子にも愛情を持って接し、理想の教育を求め続け、定年後も子どもたちへの支援や地域活動を行っていた。
まさに教師の鑑のような人だった。

誰からも慕われ、「教育の神様」とまで呼ばれていた坪井の通夜には、大勢の弔問客が詰めかけていた。
小さな子どもからお年寄りまで、集まった人のほとんどが涙を流している。
幼い少年は「せんせ〜」と泣き叫び、その少年の背中をさする少女も大粒の涙を流している。
その叫び声につられ、会場内のすすり泣く声は大きくなり、僧侶の読経がかき消されそうなほどだった。

喪主は娘の坪井晴美。容姿端麗で真面目な性格。父の背中を追って教師になっていた。 父として、教師として尊敬する人を失った悲しみは計り知れず、遺影を見るたびに泣いていた。

晴美の横で、妹の友美が「お姉ちゃん、しっかり」と支えていた。
友美は自由奔放で姉とは真逆の性格だった。 倒れる直前の父とも大ゲンカをしていて、最期を看取ることはできなかった。

誠造の同僚や教え子たち、近所や地域の人々が、それぞれの思い出を振り返っていた。
みんなの記憶の中の誠造は素晴らしかった。
集まった人たちは故人との別れを惜しみ、悲しみを和らげるために良き思い出を語り始める。
晴美や友美も話の輪に入り過去を振り返る中、何気ない会話をきっかけに思いもよらぬ方向へ進んでいく。

一人ひとりの思い出は良きものだったが、他人の思い出を聞くと違和感がある。
一つずつつなぎ合わせていくと、ある事件が見えてくる。
「もしかして先生は……」

新しい話が出てくるたびに新事実が発覚し、坪井誠造という人物像が崩れていく。
はたして坪井誠造は、本当に「神様」のような人物だったのだろうか。


■感想

本書は、神様と呼ばれた人物の本当の正体を追いかけていく、新感覚のどんでん返しミステリーです。

一般的なミステリーでは、「犯人は誰なのか」といった感じで犯人やトリックを推理していきますが、本作では「この人は何者なのか」といった少し違った視点で物語が進んでいきます。

みんなの思い出の中の坪井誠造は神様と思えるくらい素晴らしい人物でした。
しかし、ほかの人の思い出話を聞くと、自分の知らない坪井誠造の姿が見えてくる。
話が進んでいくと次第に「坪井先生は善人なのか、それとも悪人なのか」と考えるようになっていきます。
この「善人か悪人か」を見極める作業が本書の謎解きの部分になっています。

物語は通夜の席で交わされる会話だけで進んでいきますが、参列した教え子や同僚、近所の人や娘たち、それぞれの目線で語られます。
お通夜の会場にいる人たちがいったいどんなことを考えているのか。
その人の立場によって、同じ空間にいても全く別のことを考えていることがわかり、人それぞれの考え方のギャップが非常に面白いです。

参列者の中に、坪井誠造とは全く関係なく、ただ参列しただけの芸人が混ざっているのですが、周りの人たちが思い出を振り返り泣いているのを横目に、「喪主の人、綺麗だなぁ」と、その場にふさわしくないことを考えているところが、この物語のアクセントになっていて、思わず笑ってしまいました。
しかし、この芸人が部外者であるがゆえに、第三者として人それぞれの話を聞き、その話を結びついていくという重要な役割も果たしています。

登場人物たちの考えや心の声が文章のメインになっていますので、人間らしい言葉で書かれていて非常に読みやすいです。
それぞれの人の視点で語られ、場面の切り替えが細かくなっていますので、初心者の方でも場面ごとに区切りながら読み進められます。
所々に間の抜けた発言や、ストーリーに関係ないような謎の展開があったりするので、「お通夜」という舞台でありながら、不謹慎にも笑ってしまうところがありました。

一般的なミステリーとは違う切り口になっていて、謎解きの部分にも他の作品とは違った要素が盛り込まれています。そして、随所に笑える展開があるところが藤崎翔さんの作品の魅力であり、本書も例に漏れず、読んでいてとても楽しめる物語になっています。
小説に堅いイメージを持っていて、なかなか読書に踏み切れない方にも、おすすめしたい一冊です。


■まとめ

『神様の裏の顔』は、お通夜という限られた舞台で、一人の人物の本当の姿が少しずつ明らかになっていく、どんでん返しが魅力のミステリーです。

登場人物たちの何気ない会話から真実がつながっていく構成は非常に斬新で、「次はどうなるのだろう」と最後まで夢中になって読めました。

シリアスな物語でありながら、藤崎翔さんらしいユーモアも随所に散りばめられているため、重苦しさを感じることなく楽しめるのも本作の魅力です。

「普通のミステリーとは違う作品を読んでみたい方」や、「人の内面が気になる方」はもちろん、「小説は難しそう」と感じている読書初心者の方にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。​

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