一人の女性を救えるのか?極限の救出ミッションにハラハラする|『アリアドネの声』感想(ネタバレなし)

本の紹介

「緊張感のあるミステリーを読みたい」
「謎解きだけではなく、主人公が困難に立ち向かう物語を楽しみたい」
「最後に驚かされるミステリーを読みたい」

そんな人におすすめしたいのが、井上真偽さんの『アリアドネの声』です。

本作の舞台は、巨大な地下都市。
大規模な地震によって地下都市が大きな被害を受け、逃げ遅れた一人の女性を救出することになります。

しかし、その女性には、
「目が見えない」
「耳が聞こえない」
「声を出せない」
という特徴がありました。

しかも、地下都市は崩落や火災、浸水によって、人が直接助けに向かうことも難しい状況。
そこで活躍するのが「ドローン」です。

一人の女性を救うために、さまざまな困難を乗り越えていく救出ミッション。
果たして、無事に女性を救い出すことができるのでしょうか?

今回は、そんな『アリアドネの声』をネタバレなしで紹介します。


あらすじ

都市開発プロジェクト「WANOKUNI」。
地下5階にも及ぶ巨大な地下都市のオープニングセレモニーが開催されていました。

ドローン操縦のインストラクターを務める高木春生は、セレモニーで使用するドローンの準備をしています。

ところが、突然その場を巨大な地震が襲います。
立っていることさえ難しいほどの激しい揺れ。
地震によって地下都市は大きな被害を受け、天井や壁が崩落し、内部は大量の瓦礫で埋め尽くされてしまいます。

さらに、最下層では水が流れ込み、徐々に浸水。
上層階では火災も発生し、瓦礫によって消火活動も思うように進みません。

幸い難を逃れた高木は、周囲の負傷者の救助にあたっていました。
そんな高木のもとに、突然の指示が入ります。

それは、
「ドローンを使って、逃げ遅れた女性を救助してほしい」
というものでした。

女性が閉じ込められているのは、浸水が進んでいる地下の最下層。
瓦礫や火災のため、人が直接向かうことは困難です。
そこで、地下都市に設けられていたドローン用の経路を利用し、ドローンによって女性を安全な場所まで誘導することになります。

使用するドローンには、カメラやスピーカーだけでなく、赤外線やサーモカメラ、空間把握機能など、さまざまな機能が搭載されていました。
高木にとって、ドローンを操縦して女性を誘導すること自体は、それほど難しい任務ではありません。

しかし、周囲の人々の表情は険しいままです。
なぜなら、救助する女性には大きな問題があったからです。

女性は、
目が見えない。
耳が聞こえない。
声を出せない。
そんな障害を抱えていたのです。

ドローンが女性の近くまでたどり着いたとしても、存在に気づいてもらえないかもしれません。
そもそも、女性がどこにいるのかすら正確にはわかっていません。
さらに、女性の周囲には瓦礫が散乱し、地下には水が流れ込んでいます。

時間が経てば経つほど、救助は困難になっていく。
それでも、他に女性を救う方法はありません。

果たして高木たちは、女性を無事に救い出すことができるのでしょうか?


感想

一人の女性を救うために、次々と立ちはだかる困難
「目が見えない」
「耳が聞こえない」
「声を出せない」
そんな女性を、遠隔操作のドローンだけで救出する。

この設定を見ただけでも、
「いったい、どうやって助けるんだ?」
と思ってしまいます。

普通なら、直接声をかけたり、手を引いたりすることで避難を誘導できます。
しかし、この女性にはそれができません。

しかも舞台は、大規模な地震によって崩壊した地下都市。
火災、瓦礫、浸水など、さまざまな危険が同時に発生しています。

高木たちはドローンを使って女性を救おうとしますが、問題は一つ解決すれば終わりではありません。

「ここはどうする?」
という問題を乗り越えると、今度は別の問題が発生する。
さらに、時間が経つほど状況も悪化していきます。

自然災害という、人間には止めることのできない脅威。
刻一刻と変化する状況。
そして、人の不幸を利用しようとする悪意ある人間まで現れます。

こうして救出ミッションの難易度は、どんどん上がっていきます。

主人公だけではなく、周囲の人たちも力を合わせながら、一つ一つの問題を乗り越えていく。
その過程に強い緊張感があり、ページをめくる手が止まりませんでした。

「犯人は誰?」ではなく「どうやって救う?」
ミステリーというと、
「犯人は誰なのか?」
「この謎の答えは何なのか?」
と考えながら読む作品を想像する人も多いと思います。

しかし、『アリアドネの声』は少し違います。
もちろんミステリーとしての謎や仕掛けはありますが、物語の中心にあるのは、
「この状況で、どうやって女性を救うのか?」
という救出ミッションです。

次々と発生する問題に対して、
「この方法では無理なら、別の方法は?」
と知恵を絞りながら突破口を探していきます。

そのため、犯人を推理するというより、
「どうすればこのミッションをクリアできるのか?」
を見守りながら読む感覚が強い作品でした。

このような、過程重視タイプのミステリーが好きな人なら、かなり楽しめると思います。

障害について考えさせられる作品
本作を読んで、もう一つ印象に残ったのが「障害」に焦点を当てているところです。

目が見えない。
耳が聞こえない。
声を出せない。

こう聞くと、私たちはつい「不自由な生活を送っているのではないか」と考えてしまいます。
もちろん、日常生活の中で困難に直面することはとても多いと思います。

しかし、作中に登場する女性の言葉には、そんな私たちの思い込みを考えさせられるものがありました。

「私は『苦』と思ったことはない」

この言葉が、とても印象に残っています。

私たちが「不自由なのでは?」と思うことも、その人にとっては生まれたときから続いている日常です。
自分たちの「普通」を基準にして、相手の世界を勝手に判断してはいけない。
そんなことを考えさせられました。

単純に「障害を持つ人は大変だ」という描き方ではなく、一人の人間としての強さや考え方にも目を向けているところが、本作の魅力の一つだと思います。

終盤には、違和感をひっくり返す展開も
作中では、ある違和感が出てきます。
確証はないが、「おかしい」と思う部分。
この「違和感」が、物語の終盤にどんでん返しとして一つにつながっていきます。

ここは詳しく書いてしまうと面白さがなくなってしまうので、内容については触れません。

ただ、単純に「驚いた」で終わる仕掛けではありません。
どんでん返しとともに、感情を動かされる展開が待っています。

前半から続いてきた救出ミッションを見届けたあとだからこそ、終盤の展開には強く心を動かされました。

専門用語が出てくるけど、難しくない
本作には、ドローンに関する専門用語が度々登場します。

しかし、実際に読んでみると、専門用語の意味を一つ一つ理解できなくても、物語を楽しむうえではそれほど問題はありませんでした。

むしろ、専門的な機能や用語が出てくることで、
「本当にこんな高度な救助活動をしているんだ」
というリアリティが感じられます。

ドローンを使った救出という特殊な状況だからこそ、専門的な要素が物語の緊張感を高めているように感じました。

『アリアドネの声』はこんな人におすすめ

ハラハラする展開が続くミステリーを読みたい人
謎解きよりも「困難をどう乗り越えるか」を楽しみたい人
どんでん返しのある作品が好きな人
災害や救出をテーマにした作品が好きな人
普段とは違う設定のミステリーを読んでみたい人
読みやすく、最後まで一気に読める作品を探している人


まとめ

『アリアドネの声』は、巨大地下都市で発生した大災害を舞台に、一人の女性を救うために奮闘する人々を描いたミステリーです。

「目が見えない」
「耳が聞こえない」
「声を出せない」

そんな女性を、ドローンだけで救出するという難しいミッション。

そこに地震、火災、瓦礫、浸水、そして人間の悪意まで加わり、救出はどんどん困難になっていきます。

「どうやって、この女性を助けるんだ?」
そんな気持ちで読み進めているうちに、いつの間にか物語に夢中になっていました。

さらに、終盤には作中の違和感を回収するどんでん返しも用意されています。
300ページ程度と比較的読みやすいボリュームで、物語の序盤から緊張感のある展開が続くため、読書初心者にもおすすめしやすい作品です。

「難しい推理をするより、ハラハラする物語を楽しみたい」

そんな人は、ぜひ『アリアドネの声』を読んでみてください。


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