チクワの穴から見えたものとは?|『私はチクワに殺されます』感想(ネタバレなし)

本の紹介

「私はチクワに殺されます。」
このタイトルを見て、どんなミステリーを想像しますか?

おでんや煮物などに入っている、あの「チクワ」です。
チクワと殺人事件。
普通に考えれば、まったく結びつかない2つの言葉ですよね。
私もタイトルを見たときは、「これはちょっと変わったコメディ系のミステリーなのかな?」と思いました。

ところが、実際に読んでみると、思っていた以上に真面目なミステリー。
物語の鍵を握るのは、なんとチクワの「穴」です。
チクワの穴を覗いたことで、トラック運転手の男は奇妙な出来事に巻き込まれていきます。

なぜチクワなのか?
チクワの穴には、いったいどんな秘密があるのでしょうか?

今回は、五条紀夫さんの『私はチクワに殺されます』を紹介します。


■あらすじ

トラック運転手の男はコンビニに立ち寄り、車内で配送先の加工工場からもらったチクワを食べていました。

コンビニの脇道では、数名の作業員が電気工事をしています。
男はチクワをかじりながら、なんとなく工事現場を眺めていました。
すると、高所作業車から伸びたゴンドラの上で、だらしなくヘルメットをかぶり、面倒くさそうに作業をしている茶髪の青年が目に入ります。

トラック運転手は、その青年のやる気のない態度が気に入りません。
そして「この野郎め」と思いながら、望遠鏡のようにチクワの穴から青年を覗いたのです。
この何気ない行動が、男の人生を狂わせる出来事の始まりでした。

チクワの穴の先にいた青年は、ヘルメットではなく赤いものが頭を覆っていて、首が真横に折れ曲がっていたのです。
驚いた男がチクワを外して見ると、そこには面倒くさそうに仕事をする、元の青年の姿がありました。

「変なものを見たのかな」と不思議に思いながら、再びチクワを口に入れ、休憩を終えようとしたそのとき。
工事現場の方から声が上がります。
見ると、青年が高所作業車の下に倒れていました。
その青年の姿は、先ほどチクワの穴から見えた姿と同じだったのです。

チクワの穴には、いったいどんな力があるのでしょうか?
チクワの穴から未来が見えるのか?
そして、チクワの穴から見えた通りの未来になるのでしょうか?


■感想

あのチクワです。おでんに入っている、あれです。
フニャフニャしていておいしいチクワ。
殺人事件とは程遠いチクワ。
タイトルだけを見ると、コメディ作品としか思えません。
そんなふざけた内容を想定して読み始めると、待っていたのは、いたって真面目なミステリーでした。

チクワの穴を覗くと、まったく違う光景が見える。
そして、チクワの穴を覗いてはいけない。
しかし、「穴」というものは、なぜか覗きたくなります。
意識していなくても、目が行ってしまう。

例えば、親指と人差し指をくっつけて輪を作ってみてください。
おそらく、多くの人は指そのものではなく、その輪の中を見たのではないでしょうか。
穴を見ることは、人間が持っている本能的な心理なのかもしれません。
本書は、そんな「覗いてみたくなる」という人間の心理をうまく突いた作品だと思いました。

そして、作者のすごいところは、数ある「穴」の中からチクワを選んだことです。
チクワと似たような、穴の空いた食べ物を考えてみると、ドーナツ、マカロニ、レンコン、うまい棒など、いろいろあります。
しかし、本作はチクワでなければ成立しません。
うまい棒を覗いてもダメなんです。

なぜチクワなのか。
そこには、物語の設定としっかり結びついた理由があります。
単なる奇抜なアイデアだけではなく、「チクワだから成立する」というところまで考えられているため、物語にしっかりとした重厚感を感じました。

本書は200ページに満たない薄めの本なので、読書初心者でも手に取りやすい作品だと思います。
ただし、物語の内容はタイトルから受ける印象とは違い、笑えたり、ふざけたりするような作品ではありません。
本気でチクワに殺される、しっかりとしたミステリー小説です。

特に前半は、トラック運転手が「チクワによってこんなことが起きました」という内容を書いた手記のような形式になっています。
そのため、人が淡々と出来事を説明していく文章が続きます。
文章を読むことにまだ慣れていない方は、淡々と続く手記を読むことに少し疲れてしまうかもしれません。

しかし、後半になると、このチクワ事件の真相が少しずつ見えてきます。
ここからはミステリーらしい展開になっていくので、前半で少し読みづらいと感じても、ぜひ最後まで読み進めてほしいです。

『私はチクワに殺されます』の面白さは、身近にある「チクワ」という、殺人事件とは無縁に思えるものを、ミステリーの中心に置いているところです。
普段なら何も気にせず食べているチクワ。
そんなチクワが、まさか殺人事件と結びつくなんて。
本書を読んでいると、きっとチクワが気になってしまうと思います。
そして、本を閉じた後には、冷蔵庫を開けてチクワを探したくなるかもしれません。
本書を読むときは、チクワを準備しておくことをおすすめします。


■まとめ

五条紀夫さんの『私はチクワに殺されます』は、タイトルからは想像できないほど真面目なミステリー小説でした。

「チクワで人が殺される」という奇抜な設定ですが、単なる面白ネタで終わる作品ではありません。
チクワの穴を覗くという何気ない行動から始まる事件。
そして、「穴を覗いてみたい」という人間の心理を利用した設定。
読み進めるうちに、「なぜチクワなのか?」という疑問も気になってきます。

200ページに満たない作品なので、普段あまり本を読まない方にもおすすめです。
ただし、前半は手記形式で淡々と話が進むため、読書初心者の方は少し読みづらく感じるかもしれません。
それでも、後半になるとミステリーとしての面白さが増していくので、ぜひ最後まで読んでみてください。

「チクワとミステリーって、どういうこと?」
そう思った方は、ぜひ実際に読んで確かめてみてください。
読み終わったあと、あなたもチクワを見る目が少し変わっているかもしれません。
そして、冷蔵庫の中にチクワがあるなら……。
くれぐれも、穴を覗かないようにしてください。​


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